新型コロナウイルスを理由とする内定取り消しは違法か!?

弁護士 若林翔
2020年03月12日更新

twitterのトレンドに「# 内定取り消し」が入っていたのに衝撃を受けた。

新型コロナウイルスによる株価下落,不況の影響で内定取り消しが出始めているとのこと。

新型コロナウイルスを理由とする内定取り消しは違法か,違法だとしたらどのような請求ができるのか,解説するよ。

この記事の内容について,5分くらいの動画で簡単に解説もしているので,こちらもご参考にしてくれたら嬉しい。

採用内定とは?

採用内定とは,始期付解約権留保付労働契約と解されている。

難しいよね。

簡単に説明すると,始期と解約権留保っていう2つの条件はついているものの,労働契約(雇用契約)自体が内定時に成立してるよっていう意味だ。

「始期付」とは,入社日(ないしは大学卒業時)に労働契約の効力が発生するという意味だ。

「解約権留保付」とは,一定の条件が備わった場合には解約できるという条件がついているという意味だ。

 

判例(最高裁昭和54年7月20日判決 大日本印刷事件)は,以下のように考えている。

・企業からの募集が労働契約の申し込みの誘引

・労働者の応募は労働契約の申し込み

・採用内定通知は承諾

最高裁昭和54年7月20日判決 大日本印刷事件

以上の事実関係のもとにおいて、本件採用内定通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていなかつたことを考慮するとき、上告人からの募集(申込みの誘引)に対し、被上告人が応募したのは、労働契約の申込みであり、これに対する上告人からの採用内定通知は、右申込みに対する承諾であつて、被上告人の本件誓約書の提出とあいまつて、これにより、被上告人と上告人との間に、被上告人の就労の始期を昭和四四年大学卒業直後とし、それまでの間、本件誓約書記載の五項目の採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したと解するのを相当とした原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はない。

内定取り消しの要件(一般論)

まず,採用内定の取り消しは,内定時にその条件を規定はできるが,内定取り消しで定めた条件が無制限に認められるわけではない。

前述の判例は,以下の基準を示した。

採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であつて、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる

すなわち,内定取り消しができるのは以下の場合に限られる

・内定当時に知らなかったこと

・合理的で相当な理由であること

そして,裁判例上,この内定取り消しの相当性については,厳しく判断されている。

 

最高裁昭和54年7月20日判決 大日本印刷事件

試用契約における解約権の留保は、大学卒業者の新規採用にあたり、採否決定の当初においては、その者の資質、性格、能力その他いわゆる管理職要員としての適格性の有無に関連する事項について必要な調査を行い、適切な判定資料を十分に蒐集することができないため、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨でされるものと解され、今日における雇用の実情にかんがみるときは、このような留保約款を設けることも、合理性をもつものとしてその効力を肯定することができるが、他方、雇用契約の締結に際しては企業者が一般的には個々の労働者に対して社会的に優越した地位にあることを考慮するとき、留保解約権の行使は、右のような解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し社会通念上相当として是認することができる場合にのみ許されるものと解すべきであることは、当裁判所の判例とするところである(当裁判所昭和四三年(オ)第九三二号同四八年一二月一二日大法廷判決、民集二七巻一一号一五三六頁)。

右の理は、採用内定期間中の留保解約権の行使についても同様に妥当するものと考えられ、したがつて、採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であつて、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られると解するのが相当である。

これを本件についてみると、原審の適法に確定した事実関係によれば、本件採用内定取消事由の中心をなすものは「被上告人はグルーミーな印象なので当初から不適格と思われたが、それを打ち消す材料が出るかも知れないので採用内定としておいたところ、そのような材料が出なかつた。」というのであるが、グルーミーな印象であることは当初からわかつていたことであるから、上告人としてはその段階で調査を尽くせば、従業員としての適格性の有無を判断することができたのに、不適格と思いながら採用を内定し、その後右不適格性を打ち消す材料が出なかつたので内定を取り消すということは、解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当として是認することができず、解約権の濫用というべきであり、右のような事由をもつて、本件誓約書の確認事項二、「5」所定の解約事由にあたるとすることはできないものというべきである。

 

経営悪化による内定取り消しの要件

今回の新型コロナウイルスを理由とした内定取り消しとして,想定しやすいのが,会社の経営が悪化したことを理由とする内定取り消しだろう。

この場合,裁判例(東京地判H9.10.31 インフォミックス事件)では,以下の4つの基準を考慮した上で,前述した合理性・相当性を判断している。

(1)人員削減の必要性
(2)解雇回避努力の有無
(3)人選の合理性
(4)手続の妥当性

東京地判H9.10.31 インフォミックス事件

採用内定者は、現実には就労していないものの、当該労働契約に拘束され、他に就職することができない地位に置かれているのであるから、企業が経営の悪化等を理由に留保解約権の行使(採用内定取消)をする場合には、いわゆる整理解雇の有効性の判断に関する①人員削減の必要性、②人員削減の手段として整理解雇することの必要性、③被解雇者選定の合理性、④手続の妥当性という四要素を総合考慮のうえ、解約留保権の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当と是認することができるかどうかを判断すべきである。

債権者は、債務者がマネージャーを探しているとの勧誘を受けて役員らと面接し、マネージャーとしてキャリア・アップを図ることができることから債務者への入社を決意し、債務者から所属のほか職能資格等級として五八等級マネージャーと記載された採用条件提示書を受領し、これに対して入社承諾書を送付したなど、マネージャーとして入社することに大いに期待していたことが容易に推認されるのである。

そして、債権者は、平成九年三月三一日に同年四月三〇日退職予定の退職届をIBMに提出し、もはや後戻りできなくなっていたのであるから、債務者が入社の約二週間前になって債権者に対し、債務者の経営悪化等を説明して入社の辞退勧告や職種の変更を述べたことは、債権者にとってまさに寝耳に水であり、これに対して債権者が「話が違う。ちゃんとマネージャーとして雇ってくれ。」等と述べてSEとして入社するのなら試用期間を放棄してほしい旨申し入れたのは、債権者が抱いていたマネージャーとして入社できるという期待を裏切られたことへの率直な心境を言い表しているにすぎない。確かに、債務者がマネージャーからSEに職種変更命令を発したことで債権者の給与が下がるわけではないから、経済的な不利益は生じないし、また、債権者と債務者との間で職種をマネージャーに限定する旨の合意があったとは認められないから、債務者が職種変更命令を発したことは、それ自体経営上やむを得ない選択であったということができる。しかしながら、前記採用内定に至る経緯や債権者が抱いていた期待、入社の辞退勧告などがなされた時期が入社日のわずか二週間前であって、しかも債権者は既にIBMに対して退職届を提出して、もはや後戻りできない状況にあったこと、債権者が同月二四日、木村に対し、内容証明郵便を出すなどの言動を行ったのは、本件採用内定の取消を含めた自らの法的地位を守るためのものであると推認することができるから、債務者の職種変更命令に対する債権者の一連の言動、申し入れを捉えて本件内定取消をすることは、債権者に著しく過酷な結果を強いるものであり、解約留保権の趣旨、目的に照らしても、客観的に合理的なものとはいえず、社会通念上相当と是認することはできないというべきである。

この4つの要件は、整理解雇の4用件と言われている。

コロナなどによる経営悪化を理由とした整理解雇の有効要件等については、以下の記事も参照してほしい。

整理解雇の4要件とコロナによる経営悪化〜マコなり社長のリストラは有効か?〜

新型コロナウイルスを理由とする内定取り消しは違法か?

結論から言えば,新型コロナウイルスを理由として内定取り消しをすることは違法・無効となる可能性が高い

しかも,今年の新卒,4月から入社予定の人の内定取り消しとなれば,これにより内定者が被る損害も大きく,先ほどのインフォミックス事件の裁判例がいうような内定者に「著しく過酷な結果を強いる」といえるだろう。

そうであるならば,裁判所としても容易に内定取り消しを認めないだろう。

もちろん,その会社の経営状況・財務状況の悪化の具合や,回避努力として借り入れをするなどの努力をしたのか,内定取り消し以外に入社日をずらすなどの方法が取り得なかったのか,など各々の事情によって変わってくるだろうが。

 

内定取り消しをされた場合の請求と戦い方

まず,内定取り消しが前述の要件を満たさない場合,内定取り消しは無効になる。

そのため,内定がされている状態,すなわち労働契約が成立している状態になる。

労働契約上の地位があるでしょ!っていって,この地位を確認する訴訟等をしていくことになる。

また,労働者としての地位があるのであれば,契約上,給与請求権もあるでしょとして,給与の支払いを求めていくことになる。

前述のインフォミックス事件は,請求をした労働者に,1年分の給与の支払いを受けることを認めた決定だ。

労働審判や訴訟になった場合,3ヶ月から半年,事案によっては1年分の給与が認められる可能性もあるだろう。

そのほかに,債務不履行や不法行為を理由として,給与相当額の遺失利益を損害賠償として請求し,これが認められた裁判例もあるため,損害賠償請求という争い方も考えられる

 

なお,新型コロナウイルスを理由として会社から休業させられた場合に給与を請求できるかどうかについては,以下の記事を参照ください。

https://www.gladiator.jp/labor/新型コロナウイルスが原因で会社に休業を命じら/

 

また,他の新型コロナウイルス関連の法律問題について,以下の記事でまとめておりますので,ご参照ください。

https://www.gladiator.jp/covid-19/

 

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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